2006年11月17日

「夏と花火と私の死体」がMyツボにきたので、次に読んでみたのが本作です。第三回本格ミステリ大賞受賞作らしいのですが、読んでみてその評価も納得できるとてもいい作品だと思いました。
この作品に収められた6つの短編はいずれも形の異なる狂気を秘めた殺人者たちと「僕」を中心に展開します。さまざまな狂気の形が丁寧に描かれている上、殺人行為や死体の描写が細かいため一部には「グロい」との評価もあるようですが、個人的にはその淡々とした文体のせいか、実際に描かれている事自体よりも無機的でむしろ寓話的ないい意味でのとらえどころのなさを感じました。
ただ描かれている事柄が事柄だけに、精神的に未成熟な世代にとっては毒にもなる訳で、個人的にはフィクションと現実をきちんと分けて理解できる分別のある世代以降の方に向く作品かなとは思います。そういった意味で、読者を選ぶ面はありますが、本作が一級品のエンターテイメント作品であることは間違いありません。
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2006年09月15日
しばらく文芸本を読んでいなかったので、久しぶりに読んでみようかと思って、手に取ったのがこれ。どうやら本作は乙一氏のデビュー作らしいのですが、感想としては「すごい!」としか言いようがないです。物語の冒頭で殺されてしまう女の子が、自らの死後を客観的に俯瞰しているような語り口の斬新さといい、さりげなく張られた伏線の自然さといい、アメリカ映画のような緊張と弛緩のタイミングとバランスの妙といい、とてもこれが処女作だとは信じられません。
ジャンルとしてはホラーに分類すべきかミステリに分類すべきか微妙ですが、いずれのファンの方であっても十分楽しめるのではないかと思いました。
この本は本作を含む短編2本の本なので、あっという間に読める分量です。未読の方はだまされたと思って、是非どうぞ。いや、しかし、まいった。
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2005年12月26日
本書は、弱小チームだったジェフ市原(今のジェフ千葉・市原)を優勝争いが出来るレベルにまで鍛え上げ、本年2005年にはついにナビスコ杯で初タイトルを奪取することに成功した老獪な策士・オシム監督の半生記です。オシム監督は、知性とウィットに富んだコメントで有名ですが、本書を読むと、その高い知性やユーモアは、氏の置かれた過酷な環境や運命に由来する深い哲学性と無縁ではないことがよくわかります。そして、氏の考え方は、サッカーに興味がない人にでも十分有益で興味深いものです。その意味で、本書は広く一般の人にも「読むべき価値ある一冊」とおすすめできる一冊です。
筆者である木村氏は、ユーゴ、日本を何度となく行き来するなど、労を惜しまずに取材し本書を纏め上げたいわば現場派の作家といっていいでしょう。その熱意は、おそらく、ユーゴ、そしてオシムという人間に対しての愛から来たものなのだろうことは、文章からも窺い知ることが出来ます。そして、ワタシは木村氏の他の著作を読んだことがないのですが、本作が氏にとって乾坤一擲の一作であろうことはわかります。それくらい作り手の熱いものが伝わってくる本です。
個人的には「スローカーブを、もう一球/山際淳司」、「28年目のハーフタイム/金子達仁」に並ぶレベルのスポーツ系ノンフィクションの傑作だと思います。(集英社インターナショナル ; ISBN: 4797671084 ;2005/12)
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2005年12月05日
落ちぶれた中年男性である主人公・城所安男は、入院中の母の病状が非常に悪いことを知ります。しかし兄弟たちは自ら手に入れた幸せを守るのに必死で母の看病すらしようとしません。こうした状況に怒りを覚えた安男は、兄弟に助けを請うことなく自力で天才的な心臓外科医がいるというサン・マルコ病院まで母を運ぶことを決意します。-----ざっとこういうあらすじの作品で、感想としては月並みな言い方だけど、しみじみと泣ける作品です。
もちろん私自身が中年に差し掛かってきたので自分と重ね合わせることで感情移入しやすいという設定上の理由もあるのですが、なによりも泣けるのはリアリティある母と息子(安男)の会話です。いつか、私自身の両親がこういう状況になったとき、こういう会話が交わせるだろうかと考えたら別の理由で泣けてきました。
男女の愛、親子の愛、そして命を守り慈しむものの愛、そういったさまざまな愛の大切さと価値を淡々とした筆致で描いた良作だと思います。30〜40代の方に特にオススメします。(1998年作品、2000年文庫化)(2004年4月30日エントリ)
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2005年12月01日
東野氏のストーリーテラーとしての才能は、今更ここにあーだこーだ書く必要がないくらいのものであることは周知の事実です。特に東野氏のそれが他の作家のそれと大きく異なっているのは、氏は自らが専門としている狭いフィールド内で勝負するのではなく、常に新しいフィールドを物語の舞台として取り上げて続けている点です。
本作では、氏にとっては珍しいSF的舞台設定で物語が描かれていますが、得意の理工系知識はもちろん社会時事などを巧みに織り込み、安易なSFにありがちな「リアリティの希薄さ」からの乖離を実現しています。もちろん、リーダビリティの高い文体はこうした物語の情景描写をよく理解させるのに役立っています。
どうでもいいことですが、印象的なエンディングがどことなく「風の谷のナウシカ」を彷彿とさせる気がするのはワタシだけでしょうか。(1994年作品、1997年文庫化)(2004年3月16日エントリ)
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2005年11月26日
本作品は第118回直木賞候補作に残った、叙述の大御所・折原一氏の作品です。
ノンフィクションライターの五十嵐友也のもとに、連続婦女暴行殺人犯として留置されている河原輝男から自らの冤罪を晴らすため力を貸して欲しいという主旨の手紙が届く。しかし五十嵐は同事件の犯人に婚約者を殺された被害者であり、河原の主張をそう簡単には信用できずに悩む。河原は連続婦女暴行殺人犯なのか、または他に真犯人がいるのか。河原に対する裁判が進行し、この謎をはらんだ事件は再度動き始める、・・・と、こういうあらすじの話で、例によって例の如く「叙述」であることを予め考慮していても感嘆してしまう、もはや匠の域にまで到達したかのような構成力は素晴らしいです。
複雑な人間関係や時系列の輻輳などがあってストーリーは決して単純ではないのですが、それでいてリーダビリティは全く損なわれていませんし、分量を感じさせずに最後まで読ませてくれます。サブタイトル(英題?)の「Stalkers」というのも、読後に「なるほど」と思わせる巧さです。
この間読んだ「葉桜の季節に君を想うということ 」と比較しても決して遜色のない娯楽大作だと思います。(1997年作品、2000年文庫化)(2004年2月16日エントリ)
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2005年11月25日
ご存知の通り「このミステリーがすごい!(2004年版)」&「本格ミステリ・ベスト10」で1位を獲得した作品です。
物語は「なんでもやってやろう屋」の元探偵・成瀬が、蓬莱倶楽部という老人を標的にした悪徳商法会社についての調査をしていく過程を本線として、地下鉄で飛び込み自殺を図ろうとしたところを成瀬に助けられた麻宮さくらとの恋、蓬莱倶楽部に関わったことで悪事に荷担することを強要され続ける古屋節子、などの支線がパラレルに進行し最後に一気に収束していくという筋立てですが、プロットがしっかりしているのとどこか詩的な感じを受けるリズム感ある文体のせいか非常に読みやすい作品になっています。
ワタシは折原一氏の作品群とかを結構読んでいる方なので、叙述トリック自体にはさほど驚きを感じませんでしたが、物語としては十分楽しめました。amazon.co.jpの書評では厳しい意見も多く出されているようですが、ワタシ的にはそんな悪い作品ではないと思いますし、買って読む価値が十分にあると思います。
ただ一つだけ気になるのは、校正が雑です。
「ドヤ」の誤用(おそらくは「ヤサ」が正解)とか、解説の中での「的を得ている」という表現など、簡単に見つかる間違いがありました。プロの仕事としてこれはちょっと頂けません。(2003年作品)(2004年2月2日エントリ)
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2005年11月17日
本作は、精神病院を舞台にした3編からなる作品ですが、3編とも単なるサイコホラーではなく一ひねりが効いているあたり如何にも綾辻氏らしいです。特に「フリークス―546号室の患者」は、舞台設定といい登場人物といい、「恐怖」を熟知している氏ならではの作で必読です。読後までジンワリとした恐怖感が残る、良い意味で「読後感の悪い」作品はワタシのストライクゾーンど真ん中だっただけに、ワタシはかなり気に入りました。ちなみに装丁は先ごろ直木賞を受賞した京極夏彦氏です。
綾辻氏は、新本格の旗手としてメジャーシーンに登場した訳ですが、本作といい「殺人鬼」といい、こういうホラーものもとても上手いです。脱帽です。(1996年作品、2000年文庫化)(2004年1月24日エントリ)
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2005年11月16日
こっちでシスQ氏が推奨していた作品で、第98回芥川賞&中央公論新人賞受賞作品です。
会社の金を横領しその時効が成立するまでの5年間警察の手から逃げながらもなぜかその金には手をつけず、それどころか横領した金に利子までつけて会社に返そうとする佐々井という男と「僕(主人公)」の非常に淡々とした話なのですが、その根底に流れる主題は、本作冒頭の2ページが明確に示しています。素晴らしくカッコいい文なので、ここに全文引用してみましょう。
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない 。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過すのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。
星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
つまり、人間の意識の内と外を分断するのではなく、それら相互のバランスを保ちながら内と外を調和させることが、人間が豊かにそして楽に生きていくために必要だということです。
しかし池澤氏の言うそれは、単なる精神論のことでも自然論のことでもないように感じます。なぜなら本作中に出てくるいくつかの対比、すなわち遵法−違法、自由−束縛、有限−無限、偶然−必然などなどの全てが、結局「いかにしてバランスをとるか」によってそれら行動の価値が変化することを暗に示しているように思えるからです。
読んで元気が出るというタイプの作品ではないですが、さまざまなしがらみに混乱した頭をゼロクリアする力はある作品だと思います。シスQさん推奨も頷ける佳作ですね。(1988年作品、1991年文庫化)(2004年1月21日エントリ)
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2005年11月15日
売れ筋の人気バンドを解散し、ビル清掃のバイトをしながら自らが理想とする音楽を追求する武史が作家志望の女子大生・操と出会い、本物のブルースが演れるミュージシャンへと成長していく姿を描いた作品です。
例によって例の如く花村氏お得意のモチーフなのですが、物語が表層的にしか描かれていないので登場人物が妙に薄っぺらくかつリアリティー希薄に思えてしまうのが残念です。
本作を読むくらいなら、ほぼ同一モチーフの「ゴッド・ブレイス物語 」の方が断然いいと思います。(1994年作品、1998年文庫化)(2004年1月19日エントリ)
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2005年11月14日

ハツ(長谷川初実)は高校生だが、なにかにつけ仲間とつるむ雰囲気に馴染めずクラスでも浮いている。ひょんなきっかけから同じような存在のクラスメートにな川(蜷川智)に声をかけるが、その際、ハツが会ったことがあるモデル(オリチャン)がにな川の憧れの存在であることを知る。オリチャンを共通の媒介としてぎこちない関係を構築していくハツとにな川。ハツが嫌悪感さえ抱いていたにな川に対しての心境はどう変化していくのだろうか。(2003年作品)
集団への帰属意識に対する猜疑とか反抗という若者にとって普遍的なテーマを今日的な筆致で描き出した作品です。会話文を多めに進行する物語は、主人公ハツの心理が丹念に描かれていて多くの女性の共感を呼びそうですが、一方でにな川の描写は(意図的なのかもしれませんが)リアリティが不足していてやや希薄な感じがします。そのあたりが経験ベースでしか書けない作者の力量なのか意図的なものなのかは微妙ですが、後者だとするならその思惑はあまり上手く機能していないような気がします。そういう点で、あと何作か読んでみないと正当な評価はできそうもありません。
ただし、「芥川賞受賞作」という過剰な期待を持たずに読めば、十分面白い作品だとは思います。(2004年1月17日エントリ)
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2005年11月13日

ルイはアマのスプリットタンと刺青に説明できない憧れを持ち、自らもスプリットタンにしようとシバの店を訪れる。まずは舌にピアスをいれ、続いては麒麟の刺青を入れるためにシバの店に通っているうちに、ルイはシバの冷酷な行為にMとしての悦びを感じ、関係を持ってしまう。そんなある日、アマはルイにちょっかいを出したヤクザものを殴り殺してしまう。翌日の新聞でその事実を知り動揺するルイだが何事もなく月日は過ぎていく。しかしある日、アマが仕事に行ったまま戻ってこないことに不安を覚えたルイはアマを探し出そうとするが・・・(2003年作品)
近年の芥川賞受賞作に多いパターンの作品で、セックス、SM、暴力、精神の崩壊といったキーワードが織り込まれた作品です。最期まで一気に読ませる勢いはあるのですが、如何せん最期があまりにも唐突で不可解です。もうちょっと後まで描いてしまった方が、主題が明確になってよかったのではないかと思います。
個人的には、正直この手の作品はちょっと飽き気味なので、もしこの手のモチーフを扱うのならもっとストーリーを骨太にして欲しいなと思います。(2004年1月17日エントリ)
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2005年11月11日
豪州在住の著者=森巣博は、牌九(ぱいがお)という種目を得意とする「常打ち賭人」。彼と美貌のディーラー、百戦錬磨の大口賭人達(ハイローラー)が繰り広げるカシノ(理由は知らないが、森巣氏は「カジノ」とは表記しない。「カシノ」である。)での悲喜こもごもが綴られた作品です。作者が一般的な小説作法を(おそらく)意識的に無視しているので、読み始めのうちは違和感を感じるかもしれません。しかし読み進めていくうちに、factでもないかと言ってfictionでもない筆者自身が言うところの「faction」小説としてはこの文体が自然だと思えるはずです。
阿佐田哲也氏がギャンブラーをある意味で極限化し美化した上で描いたのに対し、森巣氏のそれは情けないまでに現実的に描かれています。それが故に、氏の言葉は阿佐田氏のそれと比較して「現実的な力感」のある言葉として響いてくるのでしょう。例えば「最大のリスクとは、リスクをとらないことだ」という言葉などは、実社会においても適用可能なほど現実的だと思えます。
賭博小説の芥川賞を阿佐田氏の作品とするならば、本作は賭博小説の直木賞と言えるかも知れません。そういう作品です。(2000年作品、2003年文庫化)(2004年1月14日エントリ)
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2005年11月09日
1992年に発表された7本のミステリー短編集です。宮部さんのジャンル不問の筆力はいまさらあーだこーだとここで書いても仕方ないので省略します(笑)が、本作も実に力感溢れる作品群で構成されていて、改めて「巧いなぁ」と感心させられます。
また個々の作品の完成度もさることながら、その掲載順序も意図的な演出が施されている感じで「いつも二人で」→「たった一人」という終盤の並びなどは作品の完成度、タイトル、そしてその配列の妙と名人芸とさえ言えそうな感じです。(1992年作品、1995年文庫化)(2004年1月11日エントリ)
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2005年10月29日
この物語の主人公である男は、妻と離婚したせいで(かどうかはっきりしないが)心を病んでいる。生きることになんの興味も抱けぬまま虚無感漂う生活を送っているが、唯一部屋中をタイルで敷き詰めることには異常とも言うべき執着を見せる。この男を中心とした人と人との絡み合いを柳氏特有のテイストで描いた作品。
この作品は要約するとそういうストーリーの作品です。彼女の作品に再三登場する「生」と「性」、「絶望」と「狂気」といった一連のモチーフは本作においてもまた重要なキーワードとなっていて、特に「狂気」の描写にはパラノイア的ねちっこさすら感じて薄ら寒いものがあります。
静かに進行していく狂気の暴走という恐怖と血飛沫飛びまくりのスプラッター的恐怖。2つの恐怖が描き出す人間の「狂気」を震えながらかみ締める作品です。(1997年作品、2000年文庫化)(2003年12月13日エントリ)
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2005年10月28日
言うまでもなく、昭和27年に上梓された太宰治の代表作です。
私がこの本を始めて読んだのは中学生になるかならないか位の頃だったので、今からざっと20年以上も前の話になるのですが、その当時は正直なところ「理解不能な頭のヘンな奴の話」程度にしか感じられませんでした。そんな訳でこの本は、当然のように再読の対象として顧みることもなく押入れの奥でホコリを被っていたのです。
ところが、先日蔵書の整理をチマチマとしていた時にこの本が出てきました。そこでほんの気まぐれで「ページ数も大した事ないし久しぶりに読んでみるか」と再読することにしたのです。
20数年ぶりに読んでみると、中学生当時とは違って、太宰自身が投影された主人公・大庭葉蔵の痛々しいまでのリアリティが伝わってきました。その理由としては、中学生当時よりも人生経験が蓄積され、葉蔵が恐れる様々なものに対する理解が深まったというのもあるでしょうが、それよりも何よりも自分自身の人生の暗部に向ける視線の有無というのが大きいように思えます。
文学作品ということで学生さんが読むことが多い作品だとは思いますが、10代、20代の時とは違った30代、40代での感想というのが得られる深みのある作品だと思います。その意味で大人の方にこそ是非(再び)読んでもらいたい作品です。(2003年12月12日エントリ)
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2005年10月27日

氏の作品に登場する定番モチーフの「海」と「普通の男」。この作品も基本的には同じモチーフによって紡がれた作品ですが、「宝捜し」という骨格を与えた上で、個性豊かな登場人物を多数配し、時間的な変化をも取り込んだことで、過去の作品とは違った感じに仕上げているのは流石です。
そういった意味で、感想を手短に言えば「面白かった」ということになりますが、ただ不満を言わせてもらえれば、ちょっと冗長的に長いですね。文庫本にして800ページ超も費やすようなストーリーではないように思えます。
300ページ前後で完結するようにまとめられていたら、もっと好印象だったと思います。(1996年作品、1999年文庫化)(2003年12月7日エントリ)
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2005年10月21日



Kure's Homepageをご存知ですか。このサイト、アクセス累計900万ヒット(2003/11/17現在)を超える面白テキストサイトの雄なのです。で、その中に「我が妻との闘争」というコーナーがあるのですが、そのコーナーの説明文をここに引用してみます。
この物語は、ホームページ作成に生き甲斐を見い出してしまった男と、そんな情熱など微塵も理解しない嫁との闘争を記録した、愛と感動と血と汗と涙と情熱と失禁の様子を描いた物語である。
つまり、そういう内容の本です。(簡潔
現在オンラインでも57話分が読めるので、まずは一読をオススメします。
その上で、「面白い!」と思った方は書籍が2冊出てますんでこれを買うと良いかな、と。また、それでは足りない方は月刊誌・マックピープルに連載中なのでそれも購読すれば良いかな、と。そんな風に思う訳です。
個人的には、妻帯者の方にオススメしたい一冊、いやニ冊です。(「我が妻との闘争―パソコンをめぐる夫婦のドタバタ日記」は2002年作品、「我が妻との闘争 極寒の食卓編」は2003年作品)(2003年11月19日エントリ)
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2005年10月17日
カテゴリ「マンガ」でアップしようかとも思ったのですが、コラムも50ページ以上あるし、ちょっと他のマンガとは毛色が違うんでこちらのカテゴリで。
この本は、PSI!Webで有名なにぎりこぷしさんの一般媒体デビュー作です。
氏の味わいのある描線を上記サイトで発見して以来、私はほぼ毎日巡回するようになってしまいました。それくらいクセになる絵なのです。しかも、無料メルマガで配信されているコラムも読んで面白いのですから驚きです。
で、氏の日常に根ざした生活観溢れる一コママンガを毎日無料で拝めるのは申し訳ないなぁと思っていたので、この本が出版されたときは即日購入しました。
厳選された絵日記100作に新たにコメントを加え、書き下ろしのコラムまでついた盛りだくさんの内容で「にぎりこぷし」フリークならずとも一読の価値があると思います。(2003年作品)(2003年11月2日エントリ)
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2005年10月10日
有栖川有栖氏と言えば大のエラリー・クイーン好きで、氏の作品はその影響を色濃く受けた論理的な謎の解明を中心に話が進行することが多いのですが、この作品は異色です。
それは、アムステルダムと大阪で起こった二つのバラバラ殺人事件がどうつながっていくのかが話の中心にはなりますが、最後まで読んでも謎のままで残る部分もあるからです。そういう意味では、本書は推理小説ではないのかもしれません。
しかし、薬物によるトリップ状態を文字で(!)表現する手法などとても斬新ですし、推理小説ではない物語として読む分にはかなり面白い作品だと言えます。
火村教授シリーズ、江神部長シリーズの有栖川氏しか知らない方には是非お薦めしたいと思います。(1996年作品、2001年文庫化)(2003年10月31日エントリ)
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2005年10月06日
東野圭吾氏の最新作です。主人公が実際に殺人を犯してしまうまでの話で、描かれている(物語上の)期間が長いのですが、雪のように徐々に降り積もっていく殺意を淡々とした筆致で描いているため間延びした長さは感じません。散りばめられた伏線が最後に一気に収束し、クライマックスへと繋がっていく訳ですが、相変わらず氏のストーリーテラーとしての力量の高さを感じさせる完成度の高い作品だと思います。(2003年作品)(2003年10月18日エントリ)
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2005年10月05日
折原一氏と言えば叙述トリックの大御所ですが、この作品は本格的な密室トリックを中心に据えた骨太な推理小説に仕上がっています。ネタバレになるので詳しくは触れませんが、叙述トリックを使わなくても氏の作品の特徴である「最後の最後に二転三転するサプライズある結末」は健在で、あっと驚く結末に騙される快感を味わって欲しい作品です。(1989年作品、1993年文庫化、文庫化に当たって「鬼が来たりてホラを吹く」から「鬼面村の殺人」に改題)(2003年10月17日エントリ)
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2005年10月04日
芥川賞受賞作ってことで読んでみました。
読む前には、作者の名前だけでなくオビに書かれていた小説の内容もなんとなく花村萬月に似ているなぁなんて感じていましたが、読んでみたらやっぱり花村萬月作品によく似ていました(哀)。
セックス&暴力&旅という花村氏が得意とするモチーフの組み合わせそのままで作品を書く度胸には感心しないではないですが、しかし、申し訳ないんですが、オリジナリティをほとんど感じません。それに、なんでこの作品が芥川賞を受賞できたのかがよくわからんです。花村作品に触れたことのない人なら違和感なく読めるのかも知れないですが、そうでないなら読んでもガッカリする可能性が高いと言っておきます。(2003年作品)(2003年10月14日エントリ)
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